大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成8年(行ウ)19号 判決

愛知県豊田市土橋町四丁目九番地

原告

三協高分子株式会社

右代表者代表取締役

兵藤登三

右訴訟代理人弁護士

大矢和徳

愛知県豊田市常磐町一丁目一〇五番地三

被告

豊田税務署長 小崎栄之

右指定代理人

河瀬由美子

竹中守

神田増男

佐藤信吉

主文

一  本件訴え中、岡崎税務署長が平成四年一二月二五日付けでした、原告の平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度の法人税の重加算税賦課決定のうち、金三一〇万円を超える部分を取り消すとの請求に係る部分、岡崎税務署長が平成四年一二月二五日付けでした、原告の平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度の法人税の重加算税賦課決定のうち、金一〇九万二〇〇〇円を超える部分を取り消すとの請求に係る部分及び岡崎税務署長が平成四年一二月二五日付けでした、原告の平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度の法人臨時特別税の重加算税賦課決定のうち、金二万七〇〇〇円を超える部分を取り消すとの請求に係る部分を却下する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一  岡崎税務署長が、平成四年一二月二五日付けでした、原告の平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度の法人税の更正のうち別表1の「修正申告」欄記載の金額を超える部分及び重加算税賦課決定を取り消す。

二  岡崎税務署長が、平成四年一二月二五日付けでした、原告の平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度の法人税の更正のうち別表2の「修正申告」欄記載の金額を超える部分及び重加算税賦課決定を取り消す。

三  岡崎税務署長が、平成四年一二月二五日付でした、原告の平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度の法人臨時特別税の更正のうち別表3の「修正申告」欄記載の金額を超える部分及び重加算税賦課決定を取り消す。

第二事案の概要

一  争いがない事実

1  原告はプラスチック成型加工業を営む株式会社である。

2  原告は、平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度(以下「平成三年三月期」という。)及び平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度(以下「平成四年三月期」という。)の法人税及び平成四年三月期の法人臨時特別税について、別表1ないし3の各「確定申告」欄のとおり申告し、別表1ないし3の各「修正申告」欄のとおり修正申告をした。

右申告において、原告は、平成三年三月期の金型の売上げによる利益一億〇〇四七万八四三五円のうち六分の五に相当する八三七三万二〇二九円を、同期の益金から減算して、申告した。

また、右申告において、原告は、平成四年三月期の金型の売上げによる利益六七七九万八五〇八円のうち六分の五に相当する五六四九万八七五六円を、同期の益金から減算して、申告するとともに、右平成三年三月期の金型の売上げによる利益のうち一六七四万六四〇五円、平成四年三月期の益金に計上した。

3  岡崎税務署長は、平成四年一二月二五日に、原告の平成三年三月期及び平成四年三月期の法人税及び平成四年三月期の法人臨時特別税について、別表1ないし3の各「更正」欄のとおり更正(以下、これらを総称して「本件更正」という。また、原告の平成三年三月期法人税の更正については「本件平成三年三月期更正」、原告の平成四年三月期法人税の更正については「本件平成四年三月期法人税更正」という。)をした。その内容は、平成三年三月期及び平成四年三月期の金型の売上げによる利益のうち六分の五に相当する金額をそれぞれの事業年度の益金から減算することを認めず、これらを益金に算入するとともに、平成三年三月期の金型の売上げによる利益のうち一六七四万六四〇五円を平成四年三月期の益金に計上することを認めないというものであった。

また、岡崎税務署長は、原告に対し、平成四年一二月二四日に、別表1ないし3の各「第一次賦課決定」欄の重加算税賦課決定をし、同月二五日に、別表1ないし3の各「第二次賦課決定」欄の重加算税賦課決定(以下、これらの重加算税賦課決定を総称して「本件第二次賦課決定」という。)をした。

原告は、平成五年二月二二日に、本件更正及び本件第二次賦課決定を不服として、異議申立てをしたところ、棄却されたので、同年六月二一日に、国税不服審判所長に対し、審査請求をした。

4  平成六年七月一〇日に豊田税務署が新設され、被告が原告の納税地を管轄することになり、右3の各処分についての権限が岡崎税務署長から被告に承継された。

5  国税不服審判所長は、平成八年二月二七日に、本件更正に対する審査請求を棄却し、本件第二次賦課決定を、別表1ないし3の「裁決」欄の「過少申告加算税」欄の金額の過少申告加算税賦課決定とする旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。

6  そこで、原告は、本件更正及び本件第二次賦課決定の取消しを求めて、訴えを提起した。これが本件である。

二  本案前の主張

1  被告

本件第二次賦課決定のうち、本件裁決によって取り消された部分の取消しを求めることはできない。したがって、本件訴え中この部分の取消しを求める部分は、不適法である。

2  原告

本件第二次賦課決定については、その全部の取消しを求めることができる。

三  本案についての主張

本案については、原告の平成三年三月期及び平成四年三月期の金型の売上げによる利益の一部を益金から減算することができるかどうかが争点であり、その点についての当事者の主張は、次のとおりである。

1  原告

(一) 原告は、プラスチック部品製造に必要な金型を、松下精工株式会社等の取引先に売却した上、取引先から借り受け、その金型で、取引先からの注文に応じてプラスチック部品を製造している。

(二) 金型の保管費、補修費及び取引先に返還する費用は、取引先との契約によって、原告の負担となっている。

プラスチック部品の販売価格には、金型の保管費、補修費及び取引先に返還する費用は含まれていない。プラスチック部品の販売価格は低く、製造原価すら確保できていない状況であるし、プラスチック部品について金型の保管費、補修費及び取引先に返還する費用に見合う一定量の受注が常に保証されているわけでもない。

そうすると、金型の保管費、補修費及び取引先に返還する費用は、その財源を、金型の売上げによる利益に求めざるを得ない。

(三) 金型の売上げによる収入は、一時に発生するのに対し、金型の保管費、補修費及び取引先に返還する費用は、その後一定期間にわたって発生するので、それらを対応させるために、原告は、金型の売上げによる利益について、「金型繰延利益経理基準」を作成した。

そして、原告は、右基準に基づいて、平成三年三月期の金型の売上げによる利益のうち、その六分の一に当たる一六七四万六四〇六円のみを同期の益金とし、六分の五に当たる八三七三万二〇二九円を、金型売上高勘定から前受収益勘定に振り替え、後の事業年度に繰り延べる経理処理をした。

また、平成四年三月期についても、右基準に基づいて、同期の金型の売上げによる利益のうち、その六分の一に当たる一一二九万九七五二円のみを同期の益金とし、六分の五に当たる五六四九万八七五六円を、金型売上高勘定から前受収益勘定に振り替え、後の事業年度に繰り延べるとともに、平成三年三月期の金型の売上げによる利益のうち、その六分の一に当たる一六七四万六四〇六円を、平成四年三月期の益金とする経理処理をした。

繰延期間を六年間としたのは、通商産業省機械情報産業局長昭和四九年四月一六日付け通達「家電製品に係る補修用性能部品の最低保有期間の改定等について」によると、右部品の保存義務期間が五年ないし九年と定められており、少なくともその期間は金型も保存することが必要であるところ、原告は、保存義務期間が五年の部品を製造していないので、繰延期間を控えめに六年間としたものである。

(四) 法人税法二二条四項は、「収益及び原価の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。」と規定しているところ、企業会計においては、保守主義の原則(「企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。」との原則)及び費用収益対応の原則が認められている。そして、それらの原則から、「将来発生することが予想される費用(見越費用)又は将来こうむるべき損失で、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性の高いものについては、これをあらかじめ見積もって各会計期間に割り掛け、引当金等として計上すべきもの」とされている。

金型の保管費、補修費及び取引先に返還する費用は、金型の売上げによって必然的に発生するものであり、金型の売上げの原価というべきものである。しかし、その金額を確定することが困難であるので、金型の売上収益について、右のとおり利益の繰延べをした。これは、公正妥当と認められる会計処理の基準に従ったもので、合理的な会計処理である。

2  被告

(一) 金型の保管費、補修費及び取引先に返還する費用は、金型を販売した事業年度においては、発生が定かではなく、金額も確定していないから、それを損金の額に算入することはできない。

(二) 原告が主張するとおり、企業会計においては、引当金等を計上することが認められている(前記1(四))が、税法においては、「引当金」又は「準備金」として法律で認められたもの以外の引当金等を認めることはできない。

しかるところ、金型の保管費、補修費及び取引先に返還する費用についての引当金等が法律上認められていないことは明らかである。

(三) 金型の保管費、補修費及び取引先に返還する費用は、その財源を、必然的に金型の売上げによる利益に求めざるを得ないものではない上、仮に、その財源を金型の売上げによる利益に求めざるを得ない実情があるとしても、これらの費用は、金型の販売後に別個に生じた費用である。したがって、金型の保管費、補修費及び取引先に返還する費用は、金型の売上げによる利益と直接対応するものではない。

(四) よって、原告の平成三年三月期及び平成四年三月期の金型の売上げによる利益の一部を益金から減算することはできない。

第三当裁判所の判断

一  本件訴え中重加算税賦課決定の取消しを求める部分の適法性について

本件第二次賦課決定のうち、本件裁決によって取り消された部分は、処分が存在しないから、本件訴え中この部分の取消しを求める部分は、不適法である。

二  本案について

1  証拠(甲二、三、六ないし九、一一ないし四四、四七、証人江口説也)と弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(一) 原告は、プラスチック部品製造に必要な金型を、松下精工株式会社等の取引先に売却した上、取引先から借り受け、その金型で、取引先からの注文に応じてプラスチック部品を製造している。

(二) 原告は、取引先との間において、売買取引に関する基本契約を締結しているが、その中で、原告は借り受けた金型を善良な管理者の注意をもって使用管理すること並びに金型を使用するために通常必要な維持補修費及び取引先から金型の返還を求められた場合や取引先との契約が終了した場合における運搬費等の金型の返還に要する費用は、原告が負担することを約定している。

(三) 原告が負担している金型の保管費には、次のようなものがある。

(1) 金型を保管するための倉庫の費用

金型を保管するための倉庫の賃貸料等の費用である。

(2) 金型を保管するための保管ラックの費用

原告は、倉庫を効率的に使用するためと金型を製品の製造に使用する際などに容易に出し入れすることができるようにするために保管ラックを使用している。

(3) 倉庫から金型を出し入れするための運搬費用

金型を製品の製造に使用する際などに出し入れするための運搬費用である。

(4) 金型を維持管理するための人件費

原告は、金型を維持管理するために技術部金型管理係という部署を設けて、従業員を配置している。

(四) 原告が負担している金型の補修費には、次のような瑕疵、損傷等に関する補修の費用がある。

(1) 金型メーカーから納入後半年以内に発見することができない瑕疵

金型メーカーから納入後半年以内に発見された瑕疵については、金型メーカーに補修を請求することができるが、半年以内に発見することができない瑕疵については、補修を請求することができないので、原告が補修費を負担している。

(2) 金型可動部の磨耗

(3) 凸部を形成する金型部品の損傷

(4) 突き出しピンの破損

(5) 金型見切り面の樹脂から出るガス等による損傷

(6) 金型を海外から調達する場合には金型を分解して運搬することがあるが、その場合に分解された金型を組み立てた場合に生じる不具合

(7) 金型を用いて製品を製造している際に操作を誤ったことにより生じた金型の損傷

2  右1認定の事実に基づき、原告の平成三年三月期及び平成四年三月期の金型の売上げによる利益の一部を益金から減算することの可否について判断する。

(一) 平成三年三月期及び平成四年三月期における原告の金型の売上げによる利益の額(平成三年三月期一億〇〇四七万八四三五円、平成四年三月期六七七九万八五〇八円)は、当事者間に争いがない。

(二) 原告は、右1認定の金型の保管費、補修費及び金型の返還に要する費用の原資は、金型の売却代金に求めるほかなく、これらの費用は、金型の売上げの原価ということができると主張するので、この点について判断する。

(1) 金型の保管費について

原告は、取引先から特定物である金型を借り受けており、それを返還すべき義務を負っているのであるから、その金型を善良な管理者の注意をもって保管すべきことは、民法四〇〇条により法律上当然に負っている義務であって、当事者間で約定するまでもない。そうすると、金型を保管するための費用は、原告が取引先から金型を借り受けていることによって生じる右義務を履行するための費用であるということができる。

また、原告が取引先から金型を借り受けているのは、製品(プラスチック部品)を製造するためであり、右1(三)認定の金型の保管費には、単に金型を保管するための費用ばかりでなく、金型を製品の製造に使用するために直接必要な費用というべきもの(金型を製品の製造に使用する際に出し入れするための運搬費用は、これに当たるし、保管ラックの費用についても、右出し入れを効率的にするという意味では、これに当たる。)が含まれている。

以上のとおり、右1(三)認定の金型の保管費は、原告が取引先から金型を借り受け、それで製品を製造するという、金型の売却後に金型の売却とは別の原因によって生じる費用であるから、金型の売上げに直接対応するものではなく、金型の売上げの原価ということはできない。

(2) 金型の補修費について

右1(四)認定の金型の補修費のうち、同(1)の補修費は、売却の目的物である金型の瑕疵によるものであり、同(6)の補修費は、売却の目的物である金型が当初組み立てた段階から不具合があるというものであるから、その補修費は、原告が売主として負担するものであって、金型の売却に伴い発生する費用であるということができる。

右1(四)認定の金型の補修費のうち、同(7)の補修費は、原告が取引先から金型を借り受け、それで製品を製造する過程において、操作の誤りによって生じるものであるから、金型の売却後に金型の売却とは別の原因によって生じる費用であるということができる。

右1(四)認定の金型の補修のうち、同(1)、(6)及び(7)を除く補修が必要になる原因としては、金型の瑕疵、経年による損傷、操作の誤り等が考えられるが、金型の瑕疵によって生じたのであれば、その補修費は、金型の売却に伴い発生する費用であるということができる。しかし、その余の原因で生じた補修費は、原告が取引先から金型を借り受け、それで製品を製造する過程において生じるものであって、金型の売却後に金型の売却とは別の原因によって生じる費用であるということができる。

したがって、右1(四)認定の金型の補修費のうち、同(2)ないし(5)(金型の瑕疵によって生じるものを除く。)及び(7)の補修費は、金型の売上げに直接対応するものではなく、金型の売上げの原価であるということはできない。

これに対し、同(1)、(2)ないし(5)(金型の瑕疵によって生じるもの)及び(6)の補修費は、金型の売却に伴い発生するものであるということができるが、それが発生するかどうかは、金型を売却した事業年度においては、確定しておらず、その金額を算定することも困難であるから、同事業年度における金型の売上げの原価であるということはできない。

(3) 金型の返還に要する費用について

右1(二)のとおり、原告は、取引先との契約によって金型の返還に要する費用を負担しているが、これも、原告が取引先から金型を借り受け、それで製品を製造するという、金型売却後に金型の売却とは別の原因によって生じる費用であるということができるから、金型の売上げに直接対応するものではなく、金型の売上げの原価ということはできない。

(4) 原告は、プラスチック部品の販売価格は低く、製造原価すら確保できていない状況である上、プラスチック部品について金型の保管費等に見合う一定量の受注が常に保証されているわけでもないから、右1認定の金型の保管費、補修費及び金型の返還に要する費用の原資を金型の売却代金に求めるほかないと主張する。しかし、原告の経営の実情が右原告主張のとおりであるとしても、それは、事実上、右1認定の費用の原資が金型の売却代金であるというにすぎない。右1認定の費用のうち多くのものは、右(1)ないし(3)のとおり、金型の売却代金と直接対応する関係になく、その余のものも、右(2)のとおり、その発生や金額が確定していないので、これらを、金型売上げの事業年度における金型の売上げの原価であるということはできない。

また、法人税基本通達二-二-一は、「売上原価等となるべき費用の額が、当該事業年度終了の日までに確定していない場合には、同日の現況によりその金額を適正に見積もるものとする。この場合において、その確定していない費用が売上原価等となるべき費用かどうかは、当該売上原価等に係る資産の販売等に関する契約の内容、当該費用の性質等を勘案して合理的に判断するのであるが、たとえその販売等に関連して発生する費用であっても、単なる事後的費用の性格を有するものは含まれない。」旨定めており、造成団地の分譲の場合の売上原価等(法人税基本通達二-二-二)、砂利採取地に係る埋戻費用(法人税基本通達二-二-四)、商品引換券を発行した場合における未引換券に係る商品の引換え等に要する費用(法人税基本通達二-二-一一)については、収益を計上した事業年度の後の年度に生じるものであっても、その費用の額を見積もり、収益計上した売上高に対応する額を原価として計上することが、通達によって認められている。しかし、これらは、売上高に直接対応する費用について、それが将来において発生することが確実であり、かつ、その金額も合理的に算定することができる場合に、原価として計上することを認めたものであって、右1認定の費用のように、金型の売却代金と直接対応する関係にないか、又は、その発生が不確定であり、その金額を算定することが困難なものについてまで、原価として計上することができることとしたものではない。

(三) 右1認定の金型の保管費、補修費及び金型の返還に要する費用について、右(二)のとおり金型の売上げの原価ということができない以上、それに代わる金型の売上収益の繰延べをすることもできない。

原告が主張する費用収益対応の原則は、右(二)のとおり、売却代金と直接対応する関係にないか、又は、その発生が不確定であり、その金額を算定することが困難な費用についてまで、当然に費用と収益を対応させることを要求するとは解されない。また、弁論の全趣旨によると、企業会計においては、企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならないとの原則(保守主義の原則)が存するが、他方、「過度に保守的な会計処理を行うことにより、企業の財政状態及び経営成績の真実な報告をゆがめてはならない。」ともされていることが認められるから、右のような費用についてまで売却代金と対応する経理処理をすることは、企業の財政状態及び経営成績の真実な報告をゆがめるものとして許されないというべきである。したがって、金型の売上収益の繰延べをすることが、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従った計算(法人税法二二条四項)であるとも認められない。

(四) 以上のとおり、原告の平成三年三月期及び平成四年三月期の金型の売上げによる利益の一部を益金から減算することは認められない。

3  そうすると、原告の平成三年三月期及び平成四年三月期の法人税の所得金額並びに平成四年三月期の法人臨時特別税の課税標準は、次のとおりであると認められる。

(一) 平成三年三月期の法人税の所得金額 三億一四三五万一八〇九円

右金額は、原告の平成三年三月期の法人税の修正申告書に記載された所得金額二億三一六六万六四三〇円に次(1)の金額を加算し、(2)の金額を減算した金額である。

(1) 売上げの未計上額 八三七三万二〇二九円

原告が、平成三年三月期の金型の売上げによる利益一億〇〇四七万八四三五円のうち六分の五に相当する八三七三万二〇二九円を平成三年三月期の益金から減算していた金額である。

(2) 寄付金の損金不算入額の過大額 一〇四万六六五〇円

弁論の全趣旨によると、原告の寄付金の損金算入限度額の計算において、右(1)の売上げの未計上額を寄付金支出前所得金額に加算して再計算すると、原告の寄付金の損金不算入額が一五二万〇五二四円となり、原告の平成三年三月期の法人税の修正申告書に記載された寄付金の損金不算入額二五六万七一七四円との差額一〇四万六六五〇円を損金の額に算入すべきものと認められる。

(二) 平成四年三月期の法人税の所得金額 二億六八二六万五七一五円

右金額は、原告の平成四年三月期の法人税の修正申告書に記載された所得金額二億三九一三万〇〇六四円に次の(1)の金額を加算し、(2)及び(3)の金額を減算した金額である。

(1) 売上げの未計上額 五六四九万八七五六円

原告が、平成四年三月期の金型売上げ六七七九万八五〇八円のうち六分の五に相当する五六四九万八七五六円を、平成四年三月期の売上げから減算していた金額である。

(2) 売上げの過大計上額 一六七四万六四〇五円

右(一)(1)の売上げの未計上額八三七三万二〇二九円のうち、一六七四万六四〇五円が平成四年三月期の売上げに計上されていたので、益金の額から当該金額を減算したものである。

(3) 事業税の損金算入額 一〇六一万六七〇〇円

弁論の全趣旨によると、本件平成三年三月期更正による増加所得に係る事業税一〇六一万六七〇〇円を損金の額に算入すべきものと認められる。

(三) 平成四年三月期の法人臨時特別税の課税標準法人税額 九六五三万八〇〇〇円

弁論の全趣旨によると、原告の平成四年三月期の法人臨時特別税の修正申告書に記載された端数を切り捨てる前の基準法人税額は、八五六一万二七五〇円、本件平成四年三月期法人税更正による端数を切り捨てる前の増加法人税額は一〇九二万五六二五円であると認められるから、右基準法人税額に増加法人税額を加えて、国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てると、九六五三万八〇〇〇円となる。

4  右3の原告の平成三年三月期及び平成四年三月期の法人税の所得金額並びに平成四年三月期の法人臨時特別税の課税標準法人税額は、それぞれ本件更正の金額と同額であるから、本件更正は適法である。

また、本件更正により納付すべきこととなった各税額を基礎とし、国税通則法六五条一項及び二項の規定により、平成三年三月期及び平成四年三月期の法人税並びに平成四年三月期の法人臨時特別税の過少申告加算税の額を計算すると、本件第二次賦課決定(本件裁決により一部取り消された後のもの)の額となるので、本件第二次賦課決定(本件裁決により一部取り消された後のもの)は、適法である。

三  よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田武明 裁判官 森義之 裁判官 鈴木和典)

別表1

課税の経緯

〈省略〉

別表2

課税の経緯

〈省略〉

別表3

課税の経緯

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例